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錯綜

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あなたのために世界を失おうとも
世界のためにあたなを失いたくない…

だけど、わたしは世界のために大切なあなたを失ってしまった。
この手で大切なあなたを殺してしまった。
だから、今度はあなたのために世界を捨てる。
大切なあなたを守るためなら、すべてを失ってもかまわない。

でも、今は…
ごめんなさい…姫子…


今から、自分が大切な姫子にしようとしている仕打ちを考えると不安でたまらなかった。
愛しい人から向けられる憎しみに、自分が冷静でいられるか自信がなかった。
ずっと求めていた。
多分、前世から。
そして、ずっと待っていた。
愛しい姫子に、日の巫女にもう一度出会える日を。
しかし、私達の運命は…
わたしは、この運命を呪わずにはいられなかった。
そして、前世で姫子を殺してしまった自分が許せなかった。
でも、姫子のために、姫子の存在するこの世界を守るために。
わたしは、耐えなければならない。
何もかも捨てなければならない。
そう…
姫子への想いも…
ともすれば揺らいでしまいそうな決心を紛らすために、わたしはピアノに向かった。

(姫子、姫子、姫子…)

ずっと心の中で叫んでいた。
欲しいのは、姫子の心、姫子のすべて。
なのに、それは手に入らない。
わたしの想いは、姫子に届くことはない。
それでも、求めずにはいられないわたしの心、迷い…
そんなわたしの心に導かれるように、姫子の足音が近づく。

そして、運命のドアが開く。
「千歌音ちゃん、その服どうしたの?あれ、今日祝詞の練習とかする日だったっけ?それにそれ、わたしの巫女服だよね」
憎しみでも…
姫子の心が自分に向かってくれるのなら…
それで…
わたしは、決意を胸にゆっくりと立ち上がる。
「姫子…」
「えっ」
「わたしのこと、好き?好きなの?ねぇ、どうなの?」
「好き…」
「そう、よかった」
「あ、あのね。今日は千歌音ちゃんに渡したいものがあるんだ。ほらっ、お揃いにしてもらったの。太陽がわたしで、月が千歌音ちゃんの。あ、でも千歌音ちゃんに太陽のペンダントもって」
暖かな笑顔が向けられる。
明るい声でわたしに語りかける姫子。
わたしの決意を揺るがしてしまいそうな姫子のすべて、あたたかな光。
わたしの太陽…
手に入らないのなら、いっそわたしの手で沈めてしまえ。
そして、奪い、貪り、自分のモノに…
そんな暗い思いが、心の隅で沸き起こる。
違う、違う!!
わたしは、姫子が愛しい、守りたい。だから…
相反する思いが、わたしの心の中でうずまく。
姫子、そんな目で見ないで。
これ以上、わたしの心をかき乱さないで。
「千…歌…音ちゃん?」
「こんなままごとは、もうたくさん。こんな子供じみた遊びは、もううんざり」
違うっ、わたしが聞きたいのは…
所詮、わたしの好きと姫子の好きとは違うのだ。
姫子に罪はない。
わかっている。
純粋な姫子に、わたしの想いが届くことはない。
それでも…
わたしは、姫子を想わずにはいられない。
それが、わたしと姫子に定められた運命。
だから、わたしは姫子のために…
姫子のため?
嘘…
わたしが、望んでいるのは…
姫子との永遠の夜を望んでいたのではないのか?
「千歌音ちゃん?」
姫子は、不安な声をあげた。
わたしは、心の中の相克に悩む。
しかし…

姫子を押し倒すと、無理矢理彼女の唇を奪う。
「姫子、あなたの唇、とても甘いのね」
彼女の顔に、戸惑いの色が浮かぶ。
抵抗したいのに、本気で抵抗できない。
「千歌音ちゃん、なんでっ」
哀しげな姫子の声が、わたしに届く。
嫌われる…
そう想うだけで、わたしの心は血を流す。
それでも、引き返すことは出来なかった。
「わたしね、オロチになったの。わたしのしたいことをするためにね」
「なに、千歌音ちゃん、なにを言ってるの?わたし、わからないよ。あ、やだ、千歌音ちゃん、やだよ、やめてよ」
姫子の悲痛な叫びが、わたしの心を切り刻む。
それでも、姫子を守るために、わたしは彼女に憎まれなければならない。
心優しい彼女が、心痛めることなくわたしを殺せるように。
だから、今はごめんなさい。
あなたを傷つけることを、これしかないのだ。
これしか…
何度も何度も自分自身に言い聞かせる。
「姫子、わたしね。ずっと、欲しかったの。わたしとあなたの夜が。わたしが、あなたを奏でる永遠の夜が。まだ、終わりにしたくない。だから、お願い。静かにしてね。」
「いや、どうして千歌音ちゃん、オロチになんて。いやぁー」
パチンっ
姫子の頬を叩く。
大切な彼女の顔が、赤く腫れあがる。
わたしの身体は、しばらくの間硬直する。
「あたしのせい?あたしのせいなの?あたしが、何かいけないことをしたからの?千歌音ちゃん
「理由を知りたい?知りたいのね。でも、教えてはあげない」
心の動揺を隠すように、冷たく言い放つと彼女の抵抗を抑え込み、彼女の純潔を奪う。
「いやぁー」
「好きよ、姫子」

そして、わたしは姫子を無理矢理犯した。
これで、この世でもう姫子に愛されることはない。
でも、これは姫子のためだ。
そう自分にいい聞かせて
だけど、自分の本当の心は誤魔化せなかった。
姫子を無理矢理犯しながらも、最初で最後の性愛
触れ合う肌の暖かさを忘れないように、自分の記憶に刻むように愛する。


そうよ、姫子、あなたが好き。
誰よりもあなたを愛してる。
この想いだけは、真実。
だけど、伝えることが出来ない想い。
だから、せめてあなたの刃で、この想いごとわたしを殺して
深い永遠の闇の底に、あなたへの愛を眠らせるために

わたしの愛しいあなた…

― fin ―


<2023/08/13 17:29 紫苑 芳>消しゴム
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